性虐待

ここ数年、性虐待被害のニュースを目にするようになりました。
一般の人たちは被害に遭った子に、これを言ったら傷つくかな?など、どう接していいか分からないこともあるかと思います。

今回、性虐待の被害に遭った子を対応したことがあり、また、ファミリーホームを運営し、家庭養護の活動もなさっている名古屋芸術大学教育学部、倉橋幸彦准教授に取材させて頂きました。

Q:倉橋さんは、関係機関の依頼で、性虐待の被害に遭った子を対応したことがあると仰ってましたが、どのようなことを意識して接していたのでしょうか?

A:「特別なことはしない、ただ待っていればいい」という意識でいましたね。
本人自ら、感情や自分の思いを表出することは大切だと思っているので。

誤解のないように言っときますが、全く何もしないというわけではなく、進学など、将来の岐路に立たされたときや、過去の被害で嫌だったことを吐露したときなど、大事なポイントではとことん向き合いますよ。できれば、子どもの感じる「生きづらさ」に焦点も当てていきたいと思っていますが、本人の様子を見て「待つ」というスタイルは大切にしています。

そして、最も気を付けていることは、本人の意思を確認すること。

嫌なことを吐露した時は、これからどうしていきたいのか?
進学か、就職か、人生の岐路に立たされた時は、将来どうしたいのか?
意思は確認します。

例えば、将来について、本人に聞いたりしますよね。
そこで、あいまいな事を言ってきたら、はっきりと本人の意思を確認できるまで、何度も確認します。本人は金銭面などで、親に気を遣って、将来やりたいことが言えなかったりしますので。
そして、本人のやりたい事について、私が思っていることや事実もきちんと伝えます。
時には本人にとって高いハードルであったり、厳しい現実を伝えることもありますよ。

Q:どうして、そこまで意思を確認するのでしょうか?

私は、最近、児童養護施設、中日青葉学園の施設長に就任したんですが、ファミリーホームを運営する以前は、この施設で職員として働いていました。

過去に、施設を卒業していった子の中に、新たな職場や学校でトラブルを起こして対応した子を何人も見てきました。実は、その子たちは施設にいる時は、素直で、大人の言うことを聞き、すごくいい子なんですよ。

そして、その子たちに共通していることは、将来やりたいことに進めなかったり、大人が勧めるからという理由で、その道に進んだり、実は納得いっておらず渋々大人に従ったりと、本人の意思を反映させてなかったりするんですよ。結局、本人が抱えているモヤモヤを消化しきれなくなり、どっかで爆発し、トラブルを起こすんです。

この経験から、行動の根底に、本人の意思が凄く大事なんだなと強く思うようになりました。

Q:そもそも、倉橋さんが対応した子は、どうやって性虐待が発覚したのでしょうか?

A:中学生の時、発覚しました。

学校を訪れていた教育機関の関係者が、たまたま廊下で、その子とすれ違った時、表情が非常に暗く、明らかに様子がおかしいということで、声を掛けたことがきっかけです。本人は自殺しようと思ってたみたいで。そこで初めて、小学校低学年の頃から、実の父親から性虐待を受けていることが分かって。

Q:周囲は気づかないものなのでしょうか?

A:全く気付かなかったみたいです。

明るくて、友達も多く、学業は学年上位で成績優秀、部活動はレギュラーで頑張ってましたから、端から見ると、学校生活が上手くいっているように見えます。今後どのような対応をしていくか、関係者が集まった時があったんですが、小学校関係者はすごいショックを受けていました。

Q:本人は周囲に相談しようとは思わなかったのですか?

A:小学校の頃は、自分がされていることがどういうことか分かっておらず、そして、その行為が世間ではまずいことだという認識も無かったみたいです。

ただ、本人的には嫌だったらしく、性虐待を受けている最中は、イヤホンをしていたと言っていました。あと、このことを母親に言うと家族がバラバラになると感じてたみたいで、我慢していたんだと思います。

中学校に上がってから、友達との会話で、自分がされていることはおかしいのかなと思い始めたみたいで。明らかに様子が変でないと、周囲は気づかないかもしれないですね。

Q:倉橋さんは、よく言葉にすることが回復への第一歩と仰ってますが、どういうことなのでしょうか?

A:頭の中を整理するのは言葉だと思っています。

以前、その子に、今の心境を書いてみたらと言ったことがあって、そしたら膨大な数の言葉が送られてきて、驚いたのを憶えています。

考えてみれば、つらい気持ちや被害を伝えるのも言葉ですよね。
その子も、書き出したあとは、しばらく落ち着いていたので、今思うと言葉にしてストレスを吐き出すことによって、リセットすることが出来ていたのかもしれません。

今でも、その子と会ったりしますが、嫌だった時のことを上手く言葉に出来ず、イライラしたり、落ち込んだりしているのを見ると、言葉って大事なんだなと思います。
なので、国語の勉強はしたほうがいいよと、施設の子どもたちには、よく言っています。

その子も、今は難しいかもしれませんが、いつか自分の身に起きたことを、自分の言葉で語れるようになれたらと思っています。

<プロフィール>
倉橋幸彦(くらはし ゆきひこ) 名古屋芸術大学 教育学部 准教授
児童福祉施設・中日青葉学園で職員として働き、その後、家庭養護施設・ファミリーホーム「くらちゃんハウス」を立ち上げる。2022年~中日青葉学園・あおば館施設長。

コメント

タイトルとURLをコピーしました